アダム・グレイルが死んだ朝

「紫奈!」

ファミレスを出て、自宅までの道を速足で歩いていた私が澪に見つかるのは時間の問題だっただろう。

「迎えに行くって言っただろ」

「子供じゃないから、そういうの止めて」

「子供じゃないから、心配なこともあるだろ」

「母親がまた怒り狂ってもいいの?」

「母さんは、あいつと出掛けた」

「・・・そう」

あいつとは、父の秘書だった男。
たぶんもうすぐあの女は三度目の結婚をする。
父の遺産を手に入れた後で。

「誕生日、欲しい物ある?」

「ない」

「なら、俺があげたい物にする」

「いらないから」

「それは俺の勝手だろ」

月は見えない。小さな街灯だけが道を照らす。

「もう私に関わらないで」

「・・・兄弟なのに?」

「春になれば他人でしょう」

「母さんが、お前の親権を手放すと思う?」
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