アダム・グレイルが死んだ朝

手放さないだろう。
継母とその恋人にとって、創業者の娘である私は良い駒だ。

「書類上のことなんてどうでもいいし、遺産もいらない。ただ私はもう、あんたたちと家族ごっこする気もないから」

その為に、高校を卒業してすぐに就職した。
父の遺産に頼らなくてもいいように、自分で稼いで貯金をしている。春からの生活のことも、父の弁護士だった人に相談している。

「そんなに俺が嫌い?」

「嫌い。あんたも、あんたの母親も」

隣を歩いても、肩が触れることはない。
視線を交わすこともない。

「紫奈」

「呼ばないで」

「俺の高校の同級生で、林ってやつ覚えてる?」

「知らない」

突然変わった話に、私は顔を顰めながら答える。
もう喋りかけないで欲しいのに。

「そいつが、お前に会いたいらしい」

「・・・え?」

顔を上げた。話が見えなくて、その顔を見てしまった。
澪はいつだって綺麗な顔をしている。
だけど月のように寂し気な横顔。
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