アダム・グレイルが死んだ朝

「いやーでも、紫奈ちゃん可愛いし」

嫌な男だ。明らかに嫌味を言われているとわかっているくせに、平気な顔でヘラヘラとかわす。

「先に言っておきますけど、あなたと付き合う気も抱かれる気もないですから、そういうことが目的なら今日の食事は中止にされた方が、」

「店、予約してあるから」

「……」

「それに可能性がゼロでもないでしょう?」

一歩近づいた男が、視線を合わせるように身をかがめた。
それに対して大袈裟なほど顔を顰めたのは言う間でもない。

「随分とご自分に自信があるんですね」

目を細めて言った私に、またかわすような笑み。

「自信って言うか」男が言った。「似ているでしょう?」

「え?」

「澪と、俺」

「……っ」

油断した。
男が口にした言葉に、一瞬だけ視線を彷徨わせた私の髪に、彼は慣れたように触れて撫でた。
まるで澪がそうするように。

「俺が紫奈ちゃんを紹介してって澪に頼んだとき、あいつがなんて言ったか知ってる?」

「離してください」
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