アダム・グレイルが死んだ朝
アダム・グレイルはミュージシャンだった。
洋楽を聴く人間なら誰だって知っているような、この時代に突如現れた才能豊かな新星。画面の中で動く姿から、ヘッドフォンから響く歌声から、彼の魅力は溢れていて、カリスマという言葉を無意識に使いたくなる。
そんな彼の曲を聴くのが私は好きだった。
私が望み、実現しようとする普通の人生に、彼の曲は欠かせなかった。
だから今私に足りないものがあるとすれば、彼のその歌声だろう。繊細で魅惑的で、聴いた者の人生を彩るような華やかで力強い歌声。身体の奥まで響くメロディ。
「まだ聴いてるのか」
「……」
「もう古い」
閉じていた瞼を上げると、置いてあったCDのケースを手にした男が、不機嫌そうに私を見下ろしていた。
「……勝手に入ってこないで」
「ノックしたのに返事をしなかったのはお前だ」
ベッドの上で仰向けになっていた身体を起こしてから、耳を塞いでいたヘッドフォンを外す。
「何も聴いてないから」
男の手からCDを取り上げて、音の流れていないヘッドフォンを動こうとしない男の胸元に押し付ける。