リトルガーデン~愛溢れる場所~
わたしはあきひろが遺品の整理をしている午後、ひとりで庭の椿の下にいつもいた。

わたしはたまに母の仕事である料理の本の翻訳の下訳をしたり、
母が忙しい時に家事を手伝うくらいでなんにもしていないので、時間がたくさんあった。

だから椿が咲いている間は、晴れた日は洗濯物を干してから、新聞紙を敷いて椿の木と一緒にいた。

目を閉じたり、閉じなかったり、はだしになったり、またサンダルをはいたり。

椿の下に座っていると、濃い緑の葉の間から青い空が見えた。

そして、椿はそのまるでプラスチックのような色をしたピンクの花と、
おもちゃのようなデザインの花芯を惜しみなくぼたぼたと地面に落っことして、真っ黒い土を彩った。

その色彩の組み合わせは、強いコントラストでとても激しかった。

わたしは幼い頃から毎年、その椿の木がどんどん花を咲かせはいさぎよく落とす様を見てきた。

なんにも変わったことはないのに、このように、人だけが風景の中からいなくなったりすることがある。

見るからに頼りない様子で、あきひろの色白なおじいさんが真っ黒いズボンをはいて朝の五時に大きなほうきで、
家の前をはくところを見ることはもう二度とない。
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