硝子の花片
今日も雨が降っている。

じめじめとした湿気が静かな部屋に漂っている。

こういう時の1人は何故か寂しく感じる。

雨の音に笑い声も足音も掻き消えて私だけ、この世界に置いていかれた感じがするのだ。


特にすることもないので私は沖田さんの文机に突っ伏している。この部屋には今、この文机と私しか存在しないからだ。


「…早く、帰ってこないかなあ。」

今や友達とも言える平助くんや沖田さんの帰りを待つしか出来ない私はそんな言葉を呟いていた。

「ふふっ、そんなに帰ってきて欲しかったんですか??」

「っ!?」

いつの間にか沖田さんが私の後ろに立っていた。稽古の直後だからか、道着は少し汗で濡れている。沖田さんは首に掛けた手拭いを頬に当てながら少し意地悪そうに笑った。

その時、明るい声が部屋の入り口から聞こえてきた。

「総司ー。あんま意地悪なとこ見せてたら嫌われるぞー。よっ、桜夜!俺も稽古終わってきたよ」

平助くんも沖田さんと同じく道着で、手拭いで汗を拭きながら白い歯を覗かせて立っていた。

「別に嫌われてもいいですよーだ。どうせ私は意地悪ですよー」

どうやら沖田さんは平助くんに言われた事に機嫌を悪くしているようだ。子供みたいに頬を膨らませて怒っている(?)

「別に嫌いじゃないですけど沖田さんって意外と意地悪なんですね。」

私はついつい失礼だが思った事を言っていた。
この2人と居る時はなんでもポンポンと言葉が口から出てくる。

歳が近いからか親近感が湧くのだろう。
瑞奈と話している時の感覚と似ている。
話すのも聴くのも楽しい。

だから話が出来ない時がすごく暇に感じる。

「むう、桜夜さんまで…二人して酷いですよー」

今まで見たことの無い、沖田さんの子供っぽい可愛らしい怒り方に私と平助くんはちょっとキュンってなったりして、声を上げて笑った。

沖田さんも笑いが移ったのか吹き出した。


その楽しげな声を他所に雨は強くなっていった。
< 20 / 105 >

この作品をシェア

pagetop