硝子の花片
「斎藤さん。手合わせ、お願い出来ますか?暇なんです。」

斎藤さん、と呼ばれたのは三番組組長、斎藤一。新撰組の中でも剣の腕が立つ凄い人だ。

一見クールだが、男らしく、頼まれた事は断れないらしい。(沖田さん情報だ。)

「…わかった。」

切れ長の涼やかな瞳は真っ直ぐ沖田さんを見つめていた。斎藤さんもどこか楽しそうに見える。

今から、天才剣士と凄腕の剣客の試合が始まる。

外は雨が降り続いてじめじめとしていて、さらに冷えているが道場の中は熱気と緊張に包まれていた。

「…開始」

平助くんが呟いていた瞬間、斎藤さんが一気に間合いを詰めた。木刀は腰にある。…居合か!

斎藤さんはサッと木刀を抜いた。その動きは全く目に見えなかった。

沖田さんは高く跳躍していた。さすがの脚力だ。

斎藤さんは空かさず次の攻撃に移る。しかし抜刀した直後というのは少し隙が見えてしまう。

そこに沖田さんの木刀が容赦なく斎藤さんの首にピタリとつけられた。

「…今回も勝ち逃げか。」

「ふふっ。25連勝ですね。…久しぶりに楽しかったです。またお願いします。」

そう言って斎藤さんは苦笑し、沖田さんはふわっと笑った。

「…凄い…けど…」

本当に凄かった。これが本物なんだって思い知らされた。

でも、気がかりなのは。

木刀を持つ沖田さんの目が焦点が合っていないように見える事だ。何か遠くを見つめている。何かを諦めているようにも見える。

その目を見ると、なぜだか悲しくなった。
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