硝子の花片
「桜夜。やっぱ気づいたか?総司のあの目。
…なんで諦めてるような目してるんだって前に聞いたら、あいつ、こう言ったんだ。

〈剣を持つという事は私達にとって相手か己かどちらかが必ず死ぬと言う事。
だから相手を斬ることに躊躇しないように私も生きる事を諦めなきゃいけない。
じゃないと、殺してしまう事が、怖くて仕方ないから。〉

ってさ。」

隣に居る平助くんは木刀を片付けている沖田さんを見て少し悲しそうに顔を歪めて笑った。

「…俺だって斬るのは怖いけど、生きる事さえ諦めたら、あいつ、簡単に死んじゃいそうでさ。…仲間を失うのは、嫌なんだ。だから、俺はあいつが気がかりなんだ。」

平助くんの声は弱々しく震えていた。

「っと、暗い話だったよね。ごめん。まあ、あいつは強いし、今は桜夜が居るからな。簡単には死なないと思う。…総司の事1番近くで見れるのは桜夜だけだからさ、よろしく頼むわ!じゃっ、俺は土方さんのお使いにでも行ってくる!」

平助くんはいつもの明るい笑顔を見せて去っていった。その笑顔は作り笑顔にも見えた。

「あれ?藤堂さんは行っちゃいましたか。」

沖田さんは何食わぬ顔で手拭いを頬に当て戻ってきた。

(もう、人の気も知らないでっ!)なんて思ったがそれを口に出すのはやめた。

言ったら、沖田さんが悲しい顔をするのでは無いか、なんて思ったからだ。

私は人の悲しい顔を見ると何を言っていいのか、何をしたらいいのか、分からなくなってしまう。

私には優しさがないのかもしれない、そう思うのだ。

「…桜夜さん?何故そんなに悲しそうな顔をしているんですか?私、なにかしました?」

いつの間にか沖田さんが心配そうに眉尻を下げて私の顔を覗いていた。

「それとも藤堂さんに何か言われたんですか?藤堂さんは元気で馬鹿正直過ぎるのでたまに傷つくような事を言うんですが、気にしないで下さいね?」←失礼

「あっ、違います!ちょっと…考え事をしてました。」

沖田さんは心配そうな顔をしたまま微笑んだ。

「悩んだら、気軽に相談して下さい。私は力にならないかもしれないけれど、藤堂さんも土方さんも近藤さんも貴女のこと心配してますから。」

その耳元で囁くように言った言葉を私は沖田さんにも平助くんにも言ってあげたかった。
きっと1番苦しいのは、私よりみんなだから。

「さ、部屋に戻りますか。そろそろ道場は混み合う時間になりますから」

そう言って私の2歩先を歩く沖田さんの背中はすぐに消えてしまいそうで儚い感じがした。

この消えてしまいそうな感じが平助くんも怖いんじゃないだろうか。だって、平助くんは新撰組の仲間が好きでここにいる感じがするから。

「…沖田さんも、何かあったら私に言ってください。私じゃ頼りないけど…助けて貰ってばかりは性にあわないので!」

私はそう言って笑った。それが頬が引き攣っている苦笑いだという事は沖田さんは気付いていたはずだ。

けれど沖田さんはどこか悲しそうに、けれど嬉しそうに笑った。

「ありがとう」

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