硝子の花片
第二章 憂う暁

悪夢と記憶

「…姉上…行か…ないで…」

「…?沖田、さん…?」

珍しく沖田さんが魘されている。
いつも滅多に汗をかかない沖田さんが汗に濡れていた。息はどんどん熱くなっていて、すごく苦しそうだった。

「お、沖田さん!大丈夫ですか!?お気を確かに!」

「う…っうぐ…」

声をかけるもその顔は苦痛に歪むだけだった。

(…どうしたらいい?…)

考えても無駄だと思った。私は沖田さんの事をよく知らないのだから。何に苦しんでるのか、見当も、つかないから。

思考を中止した私は咄嗟に沖田さんの強く握りしめられた手に自分の手を重ねていた。

沖田さんの手は汗ばんでいるのに冷たかった。

〈生きることを諦めなきゃいけない〉

平助くんに聞いた沖田さんの言葉を思い出した。

(そうやって生きることも諦めて、心を殺していたの?…心もこの手のように冷たくなっているの?)

殺さなければ殺される、そんな世界で生きてるの?

私は悲しくなった。こんな世界が存在したこと。
私の友達のような人々がその世界で苦しんでいること。

(…私には、何が出来るんだろ…)

私は沖田さんの手を暖めながら考えていた。

「所詮、私如きじゃあな…ははは」

時代を変えるとか、まず歴史を知らないのにどう変えるのかわからない。新撰組の人を守ることも、私程度の腕じゃ逆に守られてしまう。

ああ。また。またそんな弱音なんて。

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