硝子の花片
予感は、当たった。

5月20日、大阪西町奉行所与力 内山彦次郎を暗殺。

私にはよく知らされていないが偉い人を暗殺したのだと思う。


ドクンッ

私の胸の奥の痛みはまだ治まらない。



ふと、脳裏に沖田さんと平助くんの顔が浮かんだ。







あの二人に、何か、あるって言うの…?

過ぎった不安を振り払った。

(大丈夫。二人は強いから、簡単に死なない。そうだよ、大丈夫…)


そう信じていないと苦しかった。





「…大丈夫ですか?桜夜さん…そんなに震えて…」

巡察から帰ってきた浅葱色の羽織姿の沖田さんがしゃがんで私の顔を覗き込んだ。

私は咄嗟に沖田さんの羽織の袖を強く握っていた。

「………勝手に、死なないですよね…?」

沖田さんは目を見開いた。一瞬目を逸らして苦しい顔をしたのを、私は見逃さなかった。

私はもっと強く、羽織の袖を握った。

沖田さんは苦笑したが、すぐに優しい笑顔になった。

「…死にませんよ。…そんなに私が死ぬのが怖いですか…?」

私は力強く頷いた。

「じゃあ、死にたくても死ねないじゃないですか。私の死を震えて怖がってる貴女がいるのに。」

そう言ってふわっと笑って、沖田さんの大きな白い手が私の頭を撫でた。

いつもなら子供扱いされてるとムカッとするのにこの時は何故か安心した。


そういえば、こんなふうに頭撫でられたの、小さい頃以来だ。









この時沖田が赤面していたことは誰も知らない。
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