硝子の花片
6月に入って5日経った時の事だった。


その日は日の出前の早朝に目が覚めた。

「…あれ」

私は隣を見るとがらんとしていたので不思議に思った。
いつもなら白い布団に栗色の長い髪を散乱させて、此方に背を向け丸まって寝る沖田さんがいるはずなのに、居ないのだ。

衣桁に掛けられている浅葱色の羽織もなく、刀も見当たらなかった。

仕事があるのだろうか。こんなに朝早くに。


基本新撰組は隊服を着ない。着る時は目立つ必要のあるとき、敵か味方か判断が難しい状況に置かれる可能性がある時だ。



今日、何かが起こる。

そう確信させるのに、充分な部屋の状況だった。





私は寝間着から男装の着物に袴という格好に着替えた。

そして、押し入れの奥にあった沖田さんの使い古しと思われる短刀を握りしめ、そーっと部屋の外に出た。

「…何してるんですか」

ギクッ!?

ふと後ろからかけられた冷たい中低音の透き通った声に肩を揺らした。

「お、沖田さん…?」

私は振り返ろうとしたが、その前に彼に短刀を奪われた。

「…これを持って、何をしようとしたんですか」

いつもの沖田さんとは違った、冷たい声。
ああ…絶対怒ってる。と感じた。

「短刀を持って、市中に出て、加勢しようとしたんですね」

なんでわかるんだよ…沖田さんの読心術が怖い。

「…やめてくださいよ、そんなこと。」

「ごっ、ごめんなさっ…!」

沖田さんは私の肩を掴み顔を向けさせた。
怒ってる…と思ったけど顔は泣きそうに見えた。

「…刀を持つという事は己の手を血で穢すという事です。貴女に、そんなことして欲しくない…っ!」

珍しく沖田さんは声を荒らげていた。私の肩を掴む手が震えている。



< 47 / 105 >

この作品をシェア

pagetop