硝子の花片
「…じゃあ、私には何が出来ますか…?」

沖田さんが私を心配してくれている気持ちは十分伝わったのに、私の声は沖田さんや平助くんが死んでしまったり、怪我をしてしまうことに恐怖を感じ震えていた。

「…新撰組の役に、沖田さんや平助くんの役に、立てますか…私は…」

この前のひったくり事件の時に理解した。
沖田さんや平助くんは死と隣り合わせの仕事をしている。

いつ死んだって可笑しくないのだ。
いつ私の目の前から居なくなるかわからない人なんだ。

現代に居た時は感じなかった恐怖。
いつ仲間を失うか分からない。
いつ…好きな人を失うか分からない。

私は仲間の、想い人の死を覚悟出来るような人間じゃない。平和な日本に生まれたから。

この人は違う。
生きる時が違う。
この人は死を覚悟している。

だから死なないですよね?と聞いた時、一瞬苦しい顔をしたんだ。覚悟が、決まっているから。

私は馬鹿だ。死を覚悟出来ないくせに死を覚悟している彼を想うなんて。

「桜夜さん。そんなに思い詰めないでくださいよ。」

優しい声が心に染みた。

ゆっくり顔を上げると沖田さんはいつもの優しい笑顔で私の目を真っ直ぐ見ていた。

「…私は貴女が笑顔で居るだけで安心するんです。
藤堂さんだって、貴女が笑顔でいる時は心の底から幸せそうな顔してますよ。
貴女が笑顔で居るだけで、皆救われるんです。不思議ですけど、本当なんです。

だから…貴女は笑顔で私達の帰りを待っていてくれませんか?

きっと今日、新撰組が出動するような、何かがあると思うから。
貴女は笑顔でお帰りって、言ってくれませんか?」

沖田さんは蕩けるような、ふわっとした優しい笑顔で、優しい声色で言った。


私は、涙がとめどなく流れてきてどうにも出来なかった。

私が役に立ててたなんて、嬉しかった。
沖田さんがそう思ってくれてたなんて、嬉しかった。

ただ、それだけだった。
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