硝子の花片
その日の夜。

「おーい。総司。行くよー?」

「…はい。じゃあ、桜夜さん、行って参ります。」

「桜夜!行ってくる!」

平助くんが沖田さんを呼びに来た。
二人は浅葱色の羽織に鎖帷子、鉢金、籠手といういつもとは全く違う重装備だった。

私は二人のいつもとは違う組長としての威厳に圧倒されながらも、いつも通りの二人が笑顔で帰ってくることを信じて笑った。

「行ってらっしゃい!!私は此処で待ってます!」

二人はふっと笑って手を振った。
その無邪気だけど儚い笑顔は私の脳裏に焼き付いた。




この夜が長くなることを私は知らない。

元治元年六月五日
池田屋事件




















何も知らずに、私は沖田さんの文机に突っ伏していつの間にか寝ていた。

「うっ…」

私は夢を見ていた。

紅い三日月が辺りを妖しく照らす中、私は血塗れになって地面に座り込んでいる。

その目の前には横たわる、誰か。

私はその顔を覗き込む。

栗色の長い髪に色白の肌。
長い睫毛に固く閉じられた二重まぶた。

その整った顔は綺麗で、でも人形みたいで、生気を感じられなかった。

血に塗れた私はその頬を撫でる。

冷たい………。


「沖田さ…っ!…はっ、はっ……夢……」
気付けば冷や汗で前髪が額に張り付いていた。

(何…この嫌な感じ…)

汗のベタベタ感と嫌な胸騒ぎ。

(今日は何日…?)

六月五日。

私の脳裏に1つの単語が浮かんだ。

「池田屋事件…」

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