硝子の花片

血の華と紅い闇

沖田side
「本命は、池田屋か…だれか、伝令を頼む。」

「御意」

近藤隊10名は池田屋に到着。本命が池田屋とわかった所で、会津藩などに援軍を要求した。土方隊にも援軍として来るよう、要求。

しかし…援軍は来ない。かれこれ1時間経った。


今朝、古高という商人に化けた長州の男を捕縛した。そしてとんでもない情報が飛び込んできたのだった。
〈京の町に火を放ち、混乱に紛れて天皇を長州に連れ去る〉ということだ。

正直、尊皇とか攘夷とか、どうでもいい。
私に取って重要なのは、近藤さんたちと一緒に居ること。役に立つこと。

此処が私の居場所だから。

近藤さんたちの為なら命すら惜しくなかったのに、今朝の事件でその覚悟が揺れた。

「君がため惜しからざりし命さえ、永くもがなと思いけるかな…」

「んっ?総司。何か言った?」

「疲れでとうとう耳が可笑しくなったんじゃないですか藤堂さん?」

「酷いなあ。総司ってこういう真剣な時そんなこと云うよね」

「あれ?よく知ってますね」

「何年一緒に居ると思ってるのかな?」

私はこう言って誤魔化す事しか出来なかった。

貴女の為なら死んでも惜しくないと思っていたのに、今は永く生きたいと思うのだ。

藤原義孝という平安時代くらいの若くして亡くなった貴公子の歌。

土方さんの俳句繋がりでおふざけの一環で調べた和歌だ。あの時はなんにも思わなかったのに、今は…

こんなに心にズシッと来るなんて。

きっとこの歌は私の心を詠っている。
そんな気がしてならない。

そして、これからの私を詠っているようにも聞こえる。

でも私の心が分かったからと言って何も変わらない。

此処は戦場。


今朝の約束を守る為に、生きて帰るだけだ。




「御用改めである!」

援軍を待ち切れない、それ程緊迫している池田屋に、近藤さんの力強い声が響いた。

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