硝子の花片
「沖田さんっ!沖田さんっ!」
呼びかけるも、答えない。
(どうしよう…どうしたらいい…?)
全く動かないその整った顔は私に、「死」を連想させる。
私は沖田さんの手を握った。
(熱い…それに凄い汗……珍しい)
「あっ!」
そうだ。沖田さんを助ける方法。
これはきっと熱中症だ。
真夏の夜にこんなに人を斬って、血を浴びたんだから…。
「桜夜っ!!」
突然、怒声のような、焦っていたような大声を出して2階に上がってきたのは土方さんだった。
「お前何でここに!…総司、どうしたんだ!?」
「土方さん、今すぐ水を!お願いします!!」
「わかった。」
土方さんはすぐ水筒のようなもの(多分竹筒)を持ってきた。
顔を真っ青にして。
(皆心配してるんだから、起きてくださいよ…)
そう心の中で呼び掛けながら竹筒の口を沖田さんの閉じられた口に突っ込む。が…
「…はい、らない…」
沖田さんの口の端から零れる水。
私は絶望した。
「馬鹿か。こういう時は口移しだろ。意識のない人間が飲むこむ、なんて動作できねぇんだから。」
土方さんはサラッと爆弾発言をしてそっぽを向いた。
…やれ、というのですか?
でも羞恥心より、命だ。命ほど大切なものなんてない。
此処でこの人を死なせる訳には行かない。
「…ん…」
「沖田さんっ!わかりますか!?」
「さ、やさん…」
沖田さんは弱々しくも返事をした。
まだ目は虚ろだけど、意識は戻った。
生きている。
「よかったあ…」
もう、目覚めないのかと思った。
怖かった。
「私…生きてるんですか…?」
沖田さんは地面に仰向けに寝た状態のまま、空中に手を伸ばした。
まるで、自分の存在を確認するように。
「何言ってるんですか、生きてますよ。」
私がそう言うと沖田さんは伸ばした腕を目を隠すようにに当てた。
「桜夜さん…私…怖かった…。死にたくないって思った…。…貴女のせいだ…。」
沖田さんは震えていた。雨に濡れた子犬のように。