硝子の花片
「??…あのう、沖田さん…?」

私は只今、天才剣士に目隠しをされております。
…先程から有り得ない状況が続いております。

はて、私はどうしたらよいのやら。
私に出来るのは体温が上昇する、ただそれだけだった。

「…貴女は此処に来る時必死だったそうなので見ていないかも知れませんが、今、辺りは凄いことになってますから。目隠しされてて下さい」

そうだ。此処は池田屋。先程まで戦場だった場所だ。
血の匂いが残る、きっと沢山の人が怪我をしたり亡くなったりした場所だ。

嫌なものを見ないように、配慮してくれているんだ。

目元に当てられた手のひらの温かさが、私にそう伝えていた。




「総司、桜夜。無事か?」

「はい。私は何ともないですよ」

「わ、私も大丈夫です!」

土方さんは少し心配そうに聞いていたが、次の瞬間ニヤニヤと笑みを浮かべていた。

(…例の件なんて忘れてくださいよ。もう…っ)

私は土方さんを睨んだ。土方さんは笑みを浮かべて私を見下ろす。

対峙している私と土方さんを他所に沖田さんは戸板に乗せられた一人の隊士の元に駆けて行った。

土方さんに行け、と目で促されたので私も駆けつけた。


「…っ!?へ、平助くんっ!?」

戸板に乗せられた隊士は頭を包帯でぐるぐる巻きにされていた。包帯にはうっすらと血が滲んでいる。
かなりの重症である。

「…さ、や…?…な、んで…?」

「藤堂さん、喋らないで。出血量が多くなるからじっとしてて。」

平助くんの大きい虚ろな目が私をぼんやりと見つめる。
その力のない視線に私は戸惑った。

(…平助くんを、助けられなかった…?)

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