硝子の花片
「ごめっ…ごめん…平助くん…っ」

「何で…泣くの?…俺…生きてるし…桜夜…何も…悪くないし…だか、ら…泣かないで…?」

平助くんが弱々しく私の方へ手を伸ばす。
私はその手を掴んだ。

力が無くて、少し冷たかった。

そして、小刻みに震えていた。

「ははっ…血が、足りないみたい……心配しなくても、死なないから…大丈夫だから…」

平助くんは力無く笑う。

(何でこんな時まで笑顔なの?そんな笑みじゃ大丈夫じゃないよ…)

私はそう思った。


「…大丈夫じゃ、ない。かなりの出血量だ。…何でだろう。私が、居たのに。近くに、いたのに。何で助けられなかったんだろう。」

沖田さんが弱々しく呟く。

その顔は俯いていて見えないが、拳に力がギュッと込められるのは見えた。

…その感情の名前を、私は知っている。

後悔、だ。


平助くんは無表情で沖田さんの顔に手を伸ばすと、沖田さんの額をペちっと叩いた。

「痛っ…!?」

思っていたより痛かったのか、沖田さんは額を押さえる。

「…なーに言ってるのさ。総司こそ倒れたくせに戸板に乗せられなくて大丈夫なの?…俺は生きてるし…これは自分の不注意だから、総司も桜夜も悪くないよ?
人の心配より、自分の心配してよね。」

と平助くんは苦笑いを浮かべていた。
その顔は、兄が小さい弟を見るような、優しい顔をしていた。

「…じゃ、先に屯所に戻っておくね」

平助くんは笑って手を振った。
直後に平助くんの乗った戸板が運ばれていく。


私はその姿をぼーっと見つめて突っ立っていた。







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