硝子の花片
沖田さんは私の顔を目を丸くして見つめていたが、次の瞬間ふっと笑って、言った。

「やっぱり桜夜さんは面白い人ですねっ。
私はそういう桜夜さんが好きですよ」

「え…」

私の体温が上昇するのがわかった。

(す、好きって…)

多分、人間としての好きだろうけど、それでも私は反応せざる負えなかった。

だって、私は…沖田さんが好きだから。


でもこの気持ちを口に出す事は出来ない。
きっと、いつか来る別れを怖がっているから。

必ず、別れが来るのを、知っているから。


私は沖田さんの手をギュッと握った。

離したくない、この手。

でも離さなければいけない。

私と沖田さんは生きる時代が違う。

同じ時を生きていたって、沖田さんは過去の人。
それは変わらない。

変えてはならない、と思う。

変えてしまえば沖田さんの存在自体を無くすことになるんじゃないかって思うから。


「…桜夜さん。私は桜夜さんの隣に居たいです。今も、これからも。……これって、我儘なんですよね…でも、居させてください。」

ふと沖田さんが立ち止まって私に体を向けた。
真剣な顔でまっすぐ私を見て言う。

そう、これは我儘。
でも…

「わ、私も隣に居たいです!」

この気持ちは、我儘だろうがなんだろうが変えられない。

はっきりと言った私に沖田さんは微笑む。
思わず私も微笑んだ。

これが違う感情だとしても、隣に居たいという気持ちはきっと変わらない。

それがとてつもなく嬉しかった。
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