硝子の花片
第四章 山桜と春の雨

来訪者と異変

池田屋事件の1ヶ月後には、御所の蛤御門で長州藩と薩摩、会津等諸藩が衝突。

これを蛤御門の変(禁門の変)という。

これには新撰組も出動した。

勿論、沖田さんも。




私は屯所で山南敬助副長改め総長(局長の下で副長の上の位)とのんびりと話をして皆の帰りを待っていた。

山南敬助総長は温厚で優しくて聡明な人である。
頭もいいが剣の腕も、北辰一刀流と小野派一刀流の免許皆伝という相当な遣い手だ。

そうは思わせないほど温厚な人柄で、沖田さんと同じく子供に好かれている。地元の女性にも人気だそうな。

「…ところで、山南さんは出動なさらないのですか?強いのに…」

「私は出動出来なくても、屯所の警備が必要なのは十分承知だからね。私の任務は屯所警備さ。
ここを荒らされちゃあ、トシくん達も帰ってこられないからね。結構重要なんだよ。」

山南さんはふわっと笑う。
沖田さんは山南さんとどこか似ている。きっと、試衛館に居る時に山南さんを見て育ったからなのだろうか。

ちなみに、トシくんとは土方さんの事だ。近藤さんや山南さんは土方さんをトシと呼んでいる。
山南さんと土方さんはそれぞれ仏の総長、鬼の副長と呼ばれているが、互いに互いを認め合っているみたい。

「…そう言えば、君のおかげで総司がなんだか楽しそうにしているよ。」

「えっ」

山南さんは目を細めて言った。

「…総司は前はね、若いくせになんだか妙に大人びて冷静で無邪気な笑顔の奥に何か隠してそうな人だったんだよ。」

でも、と山南さんは微笑みながら続ける。

「今は…というか君が来てから、若者らしい、眩しい笑顔を見せるようになった。
顔を赤く染めたりなんて、乙女みたいな顔も、最近初めて見たよ。
前よりずっと生き生きしてる。

総司は近藤さんやトシくん、私を初め試衛館の仲間の弟みたいなものだから、嬉しいんだよ。

…ありがとう。」
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