硝子の花片
瞼を上げるとそこは教室だった。


「…桜夜?大丈夫…?」

心配そうに私の顔を覗き込むのは沖田さん…ではなくて瑞奈だった。

色白で二重のぱっちりとした目を持つ彼女は沖田さんと似ていて、どうしても彼と重ね合わせてしまう。


「…帰ってきた…?」


私の本来住むべき世界に帰ってきたのに、嬉しくなかった。

瑞奈と会えて嬉しい。でも何かが足りない。

向こうで出会った、新しい感情。

それが、足りない。



もう、会えないの…?

顔も見れないの…?

あの声も、後ろ姿も、もう、見ることさえ叶わないの…?




なんで今更こんなに苦しいんだろう。

わかってた。

いつか別れが来る事は知ってたはずなのに。





「…大丈夫?ぼーっとしてるよ。気分悪いの?」

瑞奈が私の額に手を当てる。

…冷たい。



私の視界がぼやける。瑞奈の顔が滲んで見えなくなった。

「え?どうしたの!?悲しいの?」

「…うっ…瑞奈…どうしよう…っ…私…あの人に会いたい…」

私は何かがプツンと切れたように泣いた。
掠れた声で心の底から自分の気持ちを話した。

瑞奈は、真っ直ぐ私の目をみて、聞いてくれた。
その紅く見える瞳は硝子みたいに透明感があって、吸い込まれそうだった。
心の中を、見通しているような瞳をしていた。

「…そっか。桜夜、難しい恋をしているんだね。
ごめんね、気づいてあげられなくて。話してくれて嬉しかった。
私はよく分からないけど、強く願ったらいいと思う。会いたいって。きっと奇跡は起こると信じてるから。

…まさか知らない間にタイムスリップして私の先祖の沖田総司と恋仲になってるなんて信じられないけど、何時でも私は桜夜の味方だから。最後まで気持ちを貫いて。」

瑞奈は鼻をすする私の背中を優しく撫でながらそう言ってふわっと笑った。

でも、その笑顔は何処か寂しそうで。

「でも、気をつけて。沖田総司は…」

瑞奈が何かを話しかけた時だった。


あの時のように、花片が視界を遮り、瑞奈の顔が見えなくなった。




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