硝子の花片
「…ここは…」

あの、桜の大木の下だった。

でも、桜はすっかり散ってしまっている。

なんだか少し寂しい。



「…けほっ…けほ」

背後から乾いた咳が聞こえて思わず勢いよく振り返った。


思った通りだ。沖田さんだ。


沖田さんは桜の大木の根元に座って居眠りをしているようだ。

でも体調が悪いのか規則正しい寝息が乱れて乾いた咳を零す。

…少し、痩せた気もする。


(あれ、じゃあ私はどのくらいの間ここにいなかったんだろう…?)


私は彼の隣にそっと座った。


起こさないように座ったつもりだが起きてしまったらしい。

モゾモゾと動いて目を薄く開いた。


「…沖田さん」

私はそっと呼びかけてみた。


沖田さんは夢だと思っているのかぼーっとしたままだ。

もう一度呼んでみる。


「沖田さん」

今度は反応した。ピクっと肩が揺れた。


そして、ゆっくり顔を上げてこちらを見る。

二重まぶたの目が大きく見開かれていく。


「…さ、やさん…?」

沖田さんは弱々しく呟いた。

私は笑って頷いた。
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