硝子の花片
…今夜は屯所が静かだ。隊士の人たちの姿もあまり見られない。

「…総司。何だか静かすぎますよ…?」

「あぁ。今日は伊東甲子太郎一派を討つらしいので戦える隊士は出払っていると思いますよ。こほっ」

総司はなんともなかったかのように言う。

私は血の気が引いていくのが分かった。

「じゃあ、平助くんも…」

殺される。仲間だった人によって。

「あっ、ごめんなさい、言い忘れてました。藤堂さんは斬る理由が無いので斬らないはずですよ。」

総司は軽く笑って言った。
その軽さが、私を安心させた。

「そんな事は先に教えてくださいよ、もう…」

「…しっ。誰か来ます」

総司は側に置いてあった愛刀を手に取って身構えた。

しばらくすると私にも分かるくらいドタバタと騒がしくなってきた。

…帰ってきたのだろうか。

(平助くんに会える…!)

鼓動が早くなる。
私の恩人であり友人である平助くん。まだ感謝も伝えられずにこの時代では二年半と少しが経った。


ふと総司が素早く立ち上がって部屋を出た。
その顔は見えない。

「総司っ!?」

私は慌ててその背中を追った。



歩くのも大変なくらい体力も落ちているはずなのに総司は駆け足でも追いつかないくらいの速さで歩いていく。

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