君が眠る時には
母が援助交際をしていたこと。
引き取ってくれた父は、女を作って出ていったこと。
お金を稼ぐために母と同じ道を選んだこと。
頼れる人なんて、いないこと。
何度危ない目にあったとしても、この方法しか生きる術がないこと。
私の話を全て聞き終わったあと、上原さんは優しい目で私を見て、何も言わなかった。
上原さんは私の連絡先を聞いた後、家まで送ってくれると言った。
「あの…上原さんの下の名前、なんて言うんですか?」
「はるか、だよ」
上原遥(うえはら はるか)か…。
「遥さん、って呼んでもいいですか?」
「どんな呼び方でも構わないよ。君は?」
「片倉雪です」
「じゃあ、雪ちゃんだね」
そう言って微笑んだ。
雪ちゃん。
名前で呼ばれたのなんて、いつぶりなんだろう。
母より、父より、優しい声で私の名前を呼んでくれた遥さん。
なんだかくすぐったかった。