はちみつドロップス
弱みは握り握られ……
「ねぇ高宮。なんでわざわざバタフライでバイトしようと思ったの?」
次の日の休み時間。
授業中の睡眠学習で涎で濡れた唇の端を、制服の袖でゴシゴシ拭っていた天に慶斗が声をかけた。
さっきまで一切視界から天を消していた皇楽もチラリと隣の様子を窺っている。
「ん~? んー……なんでって言われても」
まだ眠たげに瞼をこする天が大きく伸びをしながら欠伸を漏らした。
その豪快でがさつな欠伸に若干イラついた皇楽はこっそりと小さな溜め息を漏らしている。
「家庭の事情か?」
そのままうんざり顔をした皇楽が横から口を挟む。
ウザいことには変わりないとは言え、皇楽もわざわざ天がカフェ バタフライに現れた理由が気になるらしい。
本当に店長の店長による勝手な妄想ワールドのような事情なのか……。
「家庭の事情? 何それ」
「お母さんが病気、とか?」
「病気? 元気だけどっ」
慶斗からされた突然の不可解な質問に天はただ訝しげに小首を傾げるばかり。
「じゃあ、借金か」
「はぁっ? ローンならあるけど、ウチそんなに貧乏じゃないって。お姉ちゃんもう社会人だし」
続けてされた皇楽からの質問に天はいよいよ不可解な顔付きを浮かべて二人を見比べている。