はちみつドロップス
「高宮先輩っ」
「……げっ」
教室の前の廊下を歩いていた天に甲高い声が近付いて来る。
内股で小走りに駆け寄って来る椎菜に思わず逃げ出したい衝動にかられた。
「今日はスコーンを作って来たんですけど……高原先輩教室に居なくて……。知りませんか?」
こう言って持っていた可愛らしい紙袋をぎゅっと抱き締める。
上目使いに尋ねられた天はものすごく渋い表情で首を横に振ってみせた。
「え~。高宮先輩なら知ってると思ったのに……」
残念そうに頬を膨らませる椎菜に天は深いため息をつく。
さっさと会話を切り上げてしまおうと天が口を開いたとき、
「っていうか。いくら自分が高原先輩の彼女だからって油断し過ぎ」
「……えっ?」
一気に豹変した椎菜の顔色と声色に天は思わず目を丸くさせた。
「見ちゃったんだよねぇ……。理科室の前でコクってるの」
ニヤリと笑う椎菜にはいつも皇楽の前で見せてる可愛らしさは微塵もない。
あまりの豹変ぶりに声を失う天に、椎菜は更に追い討ちをかけるように饒舌に言葉を続けていく。