はちみつドロップス
「急いで作ってくれたんでしょ? ……ありがとう皇楽」
口元にチーズケーキの欠片を付け、天がにっと皇楽にはにかんだ。
あぁ。
やっぱり自分はこの笑顔が好きだ。
天の笑顔を見つめながら頭でそう感じるよりも早く、
「わぁっ……っ」
チーズケーキで汚れた天の右手を握り締め、自分の方へと引き寄せた。
天の唇からふわりと漏れるチーズケーキの香り。
「……おまえ、いっつも食い物の味するな」
前はチョコレートケーキだったなと、そんなことを口にするのは照れ隠しか。
「だってどっちも皇楽の味だから」
赤らんだ頬を一瞬見せた後、今は自分より背の高い高い天がギュッと腕を回した。
「服にチーズケーキつけんなよっ」
いつもなら自分が包むはずが今日は形勢逆転。
更に照れ隠しで言った皮肉は、天の背中に回した両手と同時に静かに夜空に消えていった。
……その頃、高原家では。
「なんだこれ……。兄貴主婦業ストライキか?」
部活から戻った雄楽は貧相な梅干し茶漬けとチーズケーキ欠片の並ぶ食卓に呆然と立ち尽くした。
姿の見えない高原家の主婦に、思わず携帯を取り出して安否を確認しようとしたところを、
「ダメだよ雄にぃ。皇にぃは天のとこだから」
「はぁ?」
「皇兄の恋路邪魔したらダメってこと」
ワケもわからず次男が首を傾げる中。
帰ってきた皇楽が慌てて晩御飯を作ったことは……言うまでもなかった。