はちみつドロップス
「今まで平気そうに笑ってた高宮があんな顔したんだ。……限界だぞアレ」
「…………」
慶斗の言葉で頭によぎっていた不安が増していく。
遠ざかっていく背中に自分の手はもう届かないのだろうか……。
「あんな弱ってるとこに涼希なんかが行って優しくしたら……高宮ヤバいんじゃね?」
慶斗の言うように。
天が自分を追ってくるのを待っているのだとすれば……、
「関係ない」
「……おまえなぁ」
「涼希なんか関係無い。天の眼中にねぇよ俺以外」
遠ざかっていく背中が戻るのを待ってるだけではダメだ。
さっきまでの思い悩んだ顔が嘘のように。
啖呵を切った皇楽の顔付きがキリリと引き締まる。
一瞬。
面食らったように皇楽を見た後、
「……どっから出るんだよ。その自信」
高宮を泣かせといて……。
口うるさくこう続けた慶斗が呆れたように鼻で笑ってみせる。
その後で、
「さっさと行けよっ。言ってる間にマジで涼希に取られんぞ」
ニッと珍しくいたずらっぽく笑った慶斗に後押しされて皇楽は教室から駆け出して行った。
心当たりは一つしか無い。
昨日、涼希に慰められていた非常階段。
今日こそは二の舞になるまいと向かう足を更に速めた。