はちみつドロップス
駆け込んだ非常階段の踊り場で見つけた天の傍には、
「っ!」
既に教室に天が居ないことを嗅ぎ付けた涼希が座っていた。
先を越されたことを悔やんでる隙も無く、
「どうしたの? 天さん」
天の傍らに座った涼希が心配そうに顔を覗き込んでいる。
「えっ……ううん。今日も寝不足。授業中寝なかったからかなー」
それを階段の下に身を潜めながら聞き耳を立てている自分が無様で情けない……。
慶斗の前で担架を切ったものの。
皇楽にはこの場に乗り込む勇気が持てなかった。
「天さん……」
昨日と同じく笑って誤魔化す天に涼希はただ真剣な眼差しでその顔を見据えていた。
「……高原先輩なんでしょ? 天さんにそんな顔させてんの」
「えっ」
思いがけず出された名前に天だけでなく、身を潜めていた皇楽自身までもが驚きの表情を浮かべている。
「もういいじゃんっ。天さんが居るのにあの一年生に煮え切らない態度ばっかりとってんだろ。天さんが我慢してんのに」
「……そんなこと」
「無いって言えんの?」
「…………」
俯いて黙り込んでしまった天の肩を掴んで涼希が自分の方へと向かせる。
涼希の真剣な表情に天の瞳は大きく揺れていた。