はちみつドロップス
屋上の扉を開けた瞬間。
居るはずの人影が見当たらなくて空っぽのそこに思わず立ち尽くしてしまう。
キョロキョロと辺りを二、三度見渡した後、
「…………」
扉の傍らの壁にもたれて、いつも隣に居るのと同じ顔で寝息を立てる天を見付ける。
……まさかホントに寝不足だったとは。
正面にしゃがみこんだ皇楽が、呆れたようにため息を漏らしたのも束の間。
閉じた天の瞳から零れていた雫にそっと手を伸ばした。
思えば、図書室でこうして天の涙を拭ったあの時。
あの頃から天はずっと自分を好きで居てくれた。
例え恋愛対象外と言われようと、自分が絵那に気があろうと……変わらず想い続けてくれていた。
初デートに弟を連れて行った自分を笑顔で受け入れてくれた。
そんな彼女を大切にしたいと思った自分は今まで何をしていたんだろうか。
「なぁ。付き合ってること周りに言わなかったの……茶化したり邪魔したりされたくなかったからだから」
風に揺れるハニーブラウンを指に絡めながら、皇楽はポツポツと小さく呟いていく。
「余計な茶々入れられたりからかわれたり……そんなのでおまえに嫌な思いさせたくなかった」
眠っている人間相手にしか本音を言えない自分は存外情けなかった。
自嘲気味に笑った皇楽がゆっくりと立ち上がろうとした瞬間。