はちみつドロップス
「……ごめん皇楽」
「っ!! おまえっ!」
「わたし、皇楽の気持ちも知らないで嫉妬してた……」
皇楽の濃紺のカーディガンの裾をおもむろに引っ張る天に思わず目を見張った。
カーディガンの裾に顔を押し当て、鼻を啜る天の前に皇楽が再びしゃがみこんだ。
「……ずっと皇楽はわたしと付き合ってるのが恥ずかしいんだって思ってた」
「バカ。違うに決まってんだろ」
自分のカーディガンをハンカチ代わりに、ズルズルと泣き続ける天の頭を軽く撫でてやる。
椎菜に言われたあの日から天の頭にこびり付いて取れなかった不安が、皇楽の手と言葉ですぅっと消えていく。
「良かったぁ」
カーディガンの裾から見上げる潤んだ瞳は心底安心したように微笑んでいる。
それにゆっくりと手を伸ばし、
「好きだ、天」
抱き寄せた天に今度ははっきりと告げる。
皇楽の腕の中で言われた好きは天の中にジワジワと染み込んでいき、
「わたしも好きっ! 皇楽が好きだよっ」
背中に回した手にぎゅっと力が込められる。
こうして不器用な主婦男と単純馬鹿娘はお互いの気持ちをしっかりと確かめ合った。
そして、
「これでやっと肩の荷が降りるな。まったく世話が焼ける……後でこの写メ皇楽に送ってやろ」
「ふふ。黒沢くんったら悪趣味……もちろんわたしにも送ってくれるよね?」
「いやいや絵那さんも十分悪趣……嘘です。あっ! 長男の成長をお母さんに見せるのでわたしにもください!」
覗き魔三人組に盛大に冷やかされまくった挙げ句開き直った皇楽が交際宣言をしたのは、これから数分後の出来事だった。
-終-