はちみつドロップス
「りょうき~」
聞き慣れない声に呼ばれ、鳥居 涼希(とりい りょうき)はチラリと視線を後ろにやった。
向けた視線の先に映ったもの。
凛とした顔付きの女の子と視線が重なる。
「涼姫っ。一緒に帰ろ~」
駆け寄った女の子より少し背の高い女の子。
綺麗に伸ばされた黒いストレートヘアが良く似合っている。
高瀬 涼姫(たかせ りょうき)。
隣のクラスの自分と同じ名前を持つ女の子だ。
友達と並んで帰る後ろ姿に背中を向けて、涼希は再び足を進め出す。
不意に廊下の窓から見えたグラウンドで、かつてのライバルとかつての片想いの相手が並んで歩いていくのが見えた。
ずっと変わらない皇楽の表情に対して、天の表情はコロコロと楽しそうに変わっている。
自分の前では見せる事の無い天の表情は、最近物足りない涼希の心を更に物足りなくさせた。
皇楽への対抗心から生まれた恋心は、思った以上に自分の中を大きく占めていたらしい。
視界の片隅でサッカー部の練習を熱心に見つめる女の子を気に留めることなく、涼希は廊下を歩く足を早めた。