はちみつドロップス

買い物カゴの三分の二を冷凍食品で埋め、満足げな顔をした皇楽が次に向かった先。


お一人様一個限りの特売の卵売り場だった。



「はぁ……。声掛けなきゃ良かったなー」



学校の帰り道の途中。


通りがかりのスーパーに見覚えのある顔を見つけた藍楽は、



「良いタイミングだな。でかした」



こう言って卵のMサイズを差し出した皇楽に、声をかけたことを心底後悔していた。



買い物カゴの中、朗楽、藍楽のそれぞれが卵を1パックずつ持ってレジの方へと向かって行く。



「皇にぃ。ご飯オムライスが良い」



手の中の卵を見て呟いた朗楽の一言で今日の夕食が決定する。


毎日の献立に頭を悩ます主婦にとってリクエストは有り難い。



「藍楽おまえ、鶏肉取ってこい。むね肉じゃなくてもも肉な」



「えーっ! ヤダよっ! 皇兄行ってよ」


「肉くらい取ってこいよっ!」


「ヤダよ! 卵持って並んでるだけでも面倒くさいのに……」



頭上で始まる口喧嘩から目を逸らした朗楽の視線がある一点で止まる。



そのままパッとクリクリの瞳を開いた朗楽は



「月(つき)せんせー!」



自分たち兄妹弟の後ろで買い物カゴを提げて立つ若い女性に笑顔で手を伸ばした。



胸元まである髪を緩く二つにまとめた彼女は、



「あっ、朗楽くんっ」



にっこり微笑んで朗楽の名前を呼んだ。



4歳ひまわり組、朗楽の担任の月先生だ。


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