はちみつドロップス
「兄貴」
「……なんだよ」
久しぶりに二人でサッカーのゲームをしていた皇楽と雄楽。
ロスタイム前の休憩でコントローラー片手に指の体操をする皇楽の隣で、意を決したような表情を浮かべた雄楽が声をかけた。
「言いたいことがあんなら早く言えよ」
二の句が出て来ない雄楽をチラリと横目で窺う。
じっと見上げる皇楽を見据えた雄楽がゆっくりと口を開いた。
「あのさ」
「なに?」
「……今更だけど聞いときたくて。聖梨のこと」
「はぁ?」
モゴモゴと言い淀む口から出て来た名前が意外なモノで思わず皇楽は首を傾げた。
仮にも自分の彼女候補である聖梨に関して、皇楽が言えるようなことは無いはず。
怪訝に眉を顰める皇楽に、
「……なんであんなキツかったんだよ」
じっと見据えたままの表情で雄楽が尋ねた。
言わずもがなでこれは去年の手首の捻挫の話。
それを思い出した皇楽がにわかに渋い顔になる。
約一年前。
この頃の皇楽は自分でも思い出したくない程に心がギスギスとささくれ立っていた。