はちみつドロップス
「えっ? 何のこと? 店長がうるさくてさ、あんまり聞こえなかったんだよねぇ。実は」
こう言って笑って見せる天に慶斗は軽く微笑み返した。
天の作り笑いが充満した空気に慶斗はかける言葉を探す。
「慶斗ーっ! 3番テーブルご指名でぇす」
それを打ち破って、慌ただしく更衣室のドアを開いて現れた店長に促され、
「……ウザ」
小さな舌打ちをした慶斗は扉の方へと足を進めていった。
空っぽになった更衣室で天は不意に壁に掛かった鏡に目をやる。
さっきまで笑っていた顔は今はただ、力無く自分を見つめているだけ。
「……気持ち悪い、か」
自分が皇楽に好意を寄せることを根底から否定された言葉。
どうせなら本当に聞こえなければ良かったのに……。
「はぁ……」
深いため息をつきながら天はその場にしゃがみ込み、しばらくの間膝にぎゅっと顔を押し付けていた。