はちみつドロップス
通学用の小ぶりなスポーツバックを肩にかけて背中を丸めて歩く天に、
「天さーんっ」
向かいから大きく手を振る人影がある。
「あ……高原の妹さんと弟くん」
「妹の藍楽と弟の朗楽です。ほら、ご挨拶して」
「こんにちは」
頭をペコリと下げる朗楽を、天はにっこり笑いながら視線を合わせた。
「そう言えば……皇兄は一緒じゃないんですか?」
不思議そうに尋ねる藍楽がむしろ不思議で天は不可解そうに首を傾げる。
「いやぁ。皇兄が外せない用事があるってメール寄越す時は絶対デートの時だから……」
てっきり相手は天さんだと思って!
こう言って笑う藍楽に悪気が無いことはわかっているのに、すぐに笑って否定出来なかった自分が恨めしかった。
「……えっ。いやっ! 有り得無いよ!」
少しの間の後。
笑い飛ばして誤魔化した自分は不自然じゃなかっただろうか……。
なんて内心で思う天の気持ちを知る由もなく。
「そうなんですかぁ? 皇兄の主婦話聞いても笑ってたからてっきり……」
さらりと笑ってみせる藍楽に胸が少しばかりチクンと痛んだ。
皇楽が主婦なことに驚いたのは確か。
しかし。
それを知って尚、良いか悪いか自分の気持ちは冷めてくれなかった。