はちみつドロップス
「やっぱり聞こえてたんだ。更衣室での俺らの会話」
突然。
背後から聞こえた思いがけない声に天は勢い良くそちらを振り返った。
「黒沢っ。なんでっ!?」
そこに居るのはさっき別れたはずの慶斗の姿。
目も口もまん丸にして驚いている天が予想通りだったらしく、慶斗はクスクスと小さな笑いをこぼしている。
「高宮の態度が気になったから追いかけて来たんだよ」
別れ際。
明るく笑って見せた天が逆に慶斗の心配を煽ったらしく。
ゆっくり後を追った天に追いついたのがこの藍楽と出くわした瞬間だった。
「更衣室の会話って? それと天さんが認めないのと関係あるの?」
慶斗の登場もバイト中の出来事もまるで藍楽には蚊帳の外。
天が気持ちを認めない理由の核心を突く話の詳細を催促する藍楽に構わず、
「……認めないよ。認めたらわたし、高原に気持ち悪いって思われる」
「えっ?」
天と慶斗の会話は更に続いていく。
「わたしが高原を好きだなんて、高原の中では有り得無いし気持ち悪いから」
だから認めないっ。
頑なに言い切る天の顔は珍しく真面目で、隣で聞いていた藍楽もただ黙り込んでしまうばかりだった。