はちみつドロップス
「何言ってんの。高宮はこっち」
そう言って慶斗が指差した先には、笑顔で手招きをする藍楽が居る。
「待って! わたしは夕食なんて作らないからっ」
何としても食い下がる天に、
「……高宮。夕食の一つも作れないのっ?」
「えっ?」
「そんなことも出来ないのって聞いてんだけど?」
試すように慶斗はニタリと薄い微笑みを浮かべて天を窺い見る。
「そ、そういうワケじゃなくてっ」
慶斗の挑発を受け流そうとするも、
「おねえちゃん。朗楽ハンバーグが食べたいな……って言うのよって藍楽が」
藍楽に台詞を仕込まれた朗楽が制服のスカートを引っ張り、満面の笑みで天を見上げていた。
子どもまで使うなんて……。
全身が一気に脱力感に襲われる感覚。
「……もうわかった!! 作ればいいんでしょ!!」
こうして諦め半分にまんまと作戦にハマることになった天は朗楽の手を引いて歩き出す。
「さすが高宮」
単純で助かるよ。
天に聞こえないように付け加えた慶斗はお決まりの爽やかな笑顔を残し、軽い足取りで踵を返して行った。