はちみつドロップス
他愛ない会話に時々上がる可愛らしい笑い声。
カバン一つ分隔てて隣に居る絵那に、さすがの皇楽も今ばかりは眉間がツルツルだ。
靴箱の並ぶ玄関に繋がる曲がり角の手前の階段で、
「あっ……」
踊り場に駆け上がっていく天と目が合った。
「天っ。日直終わったの?」
皇楽の傍らからひょっこり顔を見せた絵那が片手を上げ、斜め上に居る天に声をかけた。
小ぶりなスポーツバッグを肩に日誌を握った天は、
「日誌が残ってんのっ! じゃあねっ! 絵那と高原」
軽く手を振りながら笑顔で階段を駆け上がって行ってしまった。
「……高原くん?」
「えっ?」
気がつけば一歩前に歩み出ていた絵那に呼ばれて、皇楽が踊り場を見上げていた視線を前に戻した。
「行こう?」
あっという間に居なくなった天を目で追っていた自分に気付き、慌てて絵那に微笑みを返しながら足を進めていった。