はちみつドロップス
「絵那ーっ!!」
教室の静寂は十秒も保たなかった。
教卓がガタンと大きな音を立てたかと思えば、綺麗に整列された机を乱して駆け寄ってきたのは他ならぬ天自身だ。
慶斗に言われて教卓の下に潜んで様子を窺っていたらしい……。
絵那に負けないくらい頬を濡らした天が、華奢な絵那に勢い良く飛びつく。
「ごめんね絵那っ!」
「天っ!」
抱き合って泣き始めるデコボコ女子二人。
ここは空気を読んでこっそり退室すべく慶斗が出口にそっと向かう。
一頻り泣きながら謝り合う声を背中に聞きながらドアに手をかけた時だった。
「わたしっ……もう高原好きなの止める!」
耳に飛び込んで来た天の声に、思わず後ろ手にドアを閉めていた慶斗の動きが止まった。
……なんでそうなるんだか。
天を説得しようともう一度教室に回れ右をした慶斗が、
「あっ……」
空っぽの廊下で一番最初に目にしたのは、入り口の傍らで直立していた皇楽の姿だった。