暴君陛下の愛したメイドⅡ【完】
story1

実家に帰ります!!




庭園にある木々にピンク色をした小さな花が咲き始め、春の始まりを感じさせる。


私ことアニーナ・ミドル・アンディードは使用人達を後ろに引き連れて、宮殿の庭園に来ていた。



「お妃様は本当に花がお好きでございますね」


「えぇ。見てて心が安らぐの」


私がまだ客人であった時から仕えてくれている使用人サニーの言葉にそう返事を返すと、大きくそびえ立つ宮殿の方へ視線を向けた。


華やかでいて、それでいて程よい威圧感を感じるその宮殿。


まだ13歳だった頃はこの威圧感と宮殿の輝きが恐ろしく、これからのメイド生活に不安を感じたものだ。


生き延びる為に学校にも行かず親の元を離れてここへ来たわけだが……………



「…………まさかこうなるとは思ってもみなかった」


私が陛下の妃だなんてね。


「お妃様〜!!」



中へ戻ろうと右足を一歩前に出したとき、横から使用人のリリアンが高く結んだツインテールを左右に揺らしながら私の元へ駆け寄ってきた。


「リリアン!先程から姿を見ていなかったけれど、一体どこへ行っていたの?」

少し前にリリアンの身内による恐ろしい出来事が宮殿内で起こったが、事件を起した者は辺境の地へ送られ、シェパード家に関しては社交界の自粛で幕が降りた。



「聞いてください!!!私………側近部に配属されました!」


嬉しそうな顔で手に持っていた紙を私に見せ、そこには確かに国の印と『貴殿を宮殿の側近部に配属する事を命じる』との文が綴られていた。


「リリアン……おめでとう!!何て嬉しい事なのかしら!!」

私が側近部から居なくなった事により新しい者がそこへ配属されたみたいだが、

それが私に仕えていたリリアンだと知りこちらまでもが嬉しい気持ちになったのだが、対するリリアンは先程の笑顔と違って少し申し訳なさそうな表情をした。



「どうしたの?」


「……あの………実に言い難いのですが………………」


下を向いて私には言い難そうにモジモジするリリアンに「気にせず話してみなさい」と声をかけると、リリアンは恐る恐る口を開いた。


「…………来週からその部署で働くようにと言われました」


「それがどうしたの?リリアンは……嬉しくないの?」


平和ボケしていたのか、私はリリアンが悲しそうに発したその言葉の意味が良く分からなかった。


後ろに付いていた使用人達はその意味がすぐ分かっていたようで、

まるでお通夜のような雰囲気にその場が包まれる。



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