暴君陛下の愛したメイドⅡ【完】
ある日、アンディード帝国の宮殿に届いたのは白色の封筒に入れられた一通の手紙で、その手紙はすぐさま剣技場に居た陛下の元へと届けられ、受け取った陛下はその場に騎士や兵士、官僚等がいる事も忘れその内容にフ…ッと笑った。
本人は気づいていないがその場にいた誰もがその見慣れない陛下の笑みに硬直したと言う。
「予想通りか」
「……どうかされたのですか?」
その言葉に近くにいた官僚の1人が恐る恐る陛下へ声をかける。
どんな内容が書かれてあったのか、誰から送られてきたのか。
もしやそのお相手は女性の方ではないのか。
などと模索する者も中にはいた。
しかし陛下はその質問に返事は返さず、
「競技の途中だが余は少し用が出来たので、執務室へ向かう。代理の監督官として第三騎士団団長のジョナス・ミドリーハットにこの場を任せるものとし余がこの場から去ろうとも気を抜かぬよう競技に励め」
「「「「「は!!!!」」」」」
陛下の言葉により、その場はピリッとしたような緊張感に包まれる。
直立不動の兵士や騎士等の間を抜けて宮殿へ戻ると、すぐさま使用人にある者等を余の元へ来るようにと伝え、自分は先に執務室へと向かった。
そして、数分もせぬうちに呼ばれた者達は執務室へと顔を揃えた。
「………それで、私達をここに呼んだのは何の為でしょうか?」
最初に口を開いたのは宰相のファンだった。
「それは、妃の件だ。が……しかし、そなたに関しては久しぶりであるな」
そう言ってある人物に目を向ける。
目の合ったその者はすぐさま返事を返す。
「ご挨拶が遅くなりまして大変申し訳ございません。陛下に存じましてはお変わりないでしょうか」
アシメと呼ばれる前髪が斜めの髪型にアッシュグレーの髪色をしたその男は……あの時アニーナの護衛に付けられたクレハと言う者だ。
「そんな堅苦しい挨拶はよい」
三日ほど前に宮殿へ到着したクレハはやる事が多く、中々陛下の元へ挨拶が出来ていなかったよう。
そして、呼ばれたもう一人は…。
「この者の無礼、この私が変わってお詫び申し上げます」
陛下に向けて深く頭を下げるこの男。
第一騎士団団長のシュライク・ギャビンだ。