暴君陛下の愛したメイドⅡ【完】
周りの慌ただしい中案内されたのは白を基調とし大理石の床を用いた豪華な客間で、凝った模様が施された木製の椅子に腰を下ろすと、後から入ってきた侍女が人数分の紅茶を入れたティーカップを席に並べた。
爽やかな香りが鼻をかすめる。
「どうぞ………///」
「あぁ、頂こう」
顔を真っ赤にさせたその侍女はお茶を全て並べ終わると早足に部屋から出ていき、それを見ていたファンは面白そうに陛下へ話しかけた。
「知っておりましたか。ここの使用人は位は低くとも皆貴族の方だそうですよ。昔から血筋や家格を大事にしてきたガルゴの王族や一流の貴族達はそうやって品格を保ってきたそうです」
アンディード帝国では学力次第で宮殿の使用人として就けるが、ここでは品格こそが全て。庶民と貴族が交じり合う事はなく、その格差は目に見て分かると言う。
「ほぅ……文化の違いであるな。我が国は有益な奴であれば能力次第で歓迎するが、この国は違うというわけか。実に面白い。それこそ武力でなく貿易で成功した国だ」
「えぇ。こちらも決して貿易に関し劣っているわけではございませんが、この国での視察は実に勉強になるかと」
待つ間いきなり始まった政治的会話についていけないクレハとシュライクは、ただ二人の話に静かに耳を傾けた。
「しかし、想像より遥かにこの国は暑いな……。空気も乾燥しておる」
出る前は気温が低かった為、通常通りの正装でこちらへ来たが、それに比さない程の高気温に陛下は驚く。
「夏でなくてこれですから、夏になるともっと暑いのでしょう。水分補給はこまめにお取りになられますようお願い申し上げます」
「…あぁ。探す前に倒れてなどおれぬ」
そう言って目の前の紅茶を一口飲む。
ストレートティーで近くには砂糖などが置かれていたが、当然陛下は何も入れなかった。