暴君陛下の愛したメイドⅡ【完】
しかし、すでに上げ足は取られていた。
「ガルゴ王よ。慌ただしいとは王宮で何かあるのか?それに警備が手薄…とはまるで他に重要な客人でも来るかのような言い方であるな」
「…………」
『違うか?』とでも言うような陛下の表情に思わずガルゴ王とルトルスキーは黙った。
客人が来ている最中に他の方のおもてなしの話をするのは社交界……いや政治界での失態とも言われる。
自分より他の方とお会いする事の方が重大とでも誤解されかねない言葉だ。
「………失言失礼致した。そうではなく、実はもうじきこの王宮で年に数回しかない王族同士の晩餐会が開かれる予定なのだ。それに王宮内は浮足立っておりこのような有様であるが……しかし、貴殿のこのようなお誘いは吾の中では重大な事であったが為、承諾致したのだ。気に障ったのであれば謝罪する」
王はそういうと陛下に向けて頭を下げる。
王が頭を下げるというのは本来勇気のいる事であり、本当の事を話してくれたガルゴ王に少なからず陛下は他の王とは違うと、そう思った。
「………いや、こちらこそこの様な忙しい時期に来てしまいすまなかった」
噂で聞く暴君な陛下とは思えない目の前の陛下に王は一瞬目を丸くしつつも、申し訳なさそうに口を開く。
「何を言う。気を悪くさせた吾が悪かったのだ。……こう言った話のときに何だが良ければ貴殿もその晩餐会に出席してはくれないか?本来なら貴殿とお会いした3日後に開く予定の晩餐会だが、貴殿さへよければ招待させてくれ」
「………3日後」
ぼそりと周りに聞こえない程の声で陛下はそう呟く。
「どうかされたか?」
「いや、心よりお受け致そう」
二日だけでなくプラス三日も日を得た。
何としてでも探し出そう。
陛下はそう心の中で思いながらも表面は穏やかである。
そして、ここからある作戦に乗り出した。
「しかし………困ったものだ。どうしたらよいか」
「どうかされたのか?アンディードの王よ」
悩んだように『ふぅ……』とため息をつく陛下に、何事かと焦った王はすぐさま言葉を返した。
「いや、予定より早く着いたものでガルゴ王もさぞかし予定がずれたであろう。それで邪魔にならぬよう過ごそうと思ったのだが……何か良い案はないものかと」
「……そうであったのか。この王宮には珍しい花が育成された温室やエステ、温泉もありますがゆえ気にせず使うがよい」
「それはそれは…勿体ない待遇であるな」
二人は言葉を穏やかに交わしつつ、「はっはっは!!」と笑いあった。
確かに素晴らしい待遇であるが本来の目的はそうではない。
そしてその最初は……
「陛下。私ながら良い案を思いつきました」
「ほぅ……それは一体なんだ?申してみよ」
「はっ!!申し上げます。アンディード帝国とガルゴ王国では文化に違いがございます。そこで町に出られ視察されてみては以下がでありましょう?」
護衛の思わぬ言葉に王は目を見開かせた。
「それはよい考えであるな!………ガルゴ王よ。どうかこの国を視察させてはくれまいか?我が国の発展の為、各町を回り良いものを取り入れたいのだが」
「……そうであるか。その発想はなかったがゆえ少々ビックリしておるが、何も問題はない。許可しよう。中には入れぬ場所もあるだろうので、こちらから通行許可書を発行させて頂こう。それで各施設が難なく視察できるであろう」
「すまない。感謝する」
早速ガルゴ王は国の紋章が入った通行許可書を発行し、それを受け取った一同は客室に案内された後外へ出かけたのであった――――――――。