暴君陛下の愛したメイドⅡ【完】
香りの良い紅茶の葉とお茶菓子を手に入れるべく、フィグリネ様の敷地内から離れ厨房付近の廊下を歩いていた時、久しぶりに意外な人物と遭遇した。
「あら、貴女どこへ行くの?」
「…チベットさん!」
「この先は厨房だけど料理を作るのかしら」
不思議そうな顔で私を見るチベットさんに事情を軽く説明した。
「あら、そうなのね」
反応は思っていたより軽いものだった。
「チベットさんの側女様も来られるのでは?」
第二妻の方の侍女であれば支度など忙しいはずなのに、目の前のチベットさんはその焦った感じが全く見られない。
それももちろん、
「馬鹿ね……あの方があの様な集まりに参加するわけないでしょう」
「と言いますと?」
「毎回呼ばれるのだけど私の仕える側妻様はそういった集まりが大の嫌いで、丁寧に断っているわ。あれはただの情報交換ではない。権力を使い抑圧するくだらない集まり…………なんて言ったらいけないのだけどね(笑)」
最後の冗談交じりな笑みの前に見せた淡々と発するあの真顔は、本心ではないかと思ってしまうが、侍女がそのような事を言っていたとなればそれこそ問題になるので、あえてそこは触れないでおく。
「それより、貴女は大丈夫なの?」
話を変えたのは私でなくチベットさんだった。
「何がでしょうか?」
その言葉の意味が分からず首を横に傾げる。
「何がって貴女……無理しているんじゃないの?詳しい理由は知らないけれど顔色が少し優れないのではなくて?」
「そう………ですか?」
自分では全くそんな症状はないから気づかない。
「前より顔色が良くないと思うわ。少し休んだら?」
「……そうですね。厨房で紅茶の葉を頂いた後はセッティングをしなくてはいけないので、それから少し休憩をもらうと致します」
「それが良いわ。じゃあ、頑張ってね!」
「はい!」
チベットさんと分かれると私は目的の厨房へと向かい、紅茶の葉とお菓子を少々頂いた後、フィグリネ様の元へ戻った。