暴君陛下の愛したメイドⅡ【完】
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歩く音だけがその場に響き渡る。
俺の後ろを付いてくるのは鎧を体に身に着けたこの離宮の兵士達で、ズラッと列を成している。
―――ギィ…。
古くも頑丈な鉄の扉を開くとゴツゴツとした石の床を歩き、目的の場所に向かう。
奥に行けば行くほど寒さは増していき、目的の場所は熱々しい外とは対照的に冷え込んでいた。
「……あら、アルヴァン様が兵を連れこちらへ来られたという事は、ついに執行されるのね」
牢屋にいるフィグリネは変わりなくいつものように凛としていた。
まるで罪人ではないと錯覚してしまうぐらいに。
「判決を言い渡しにきた」
「そう…それは楽しみですわ」
そう言ってフィグリネは、ふふふ……と笑う。
冗談を言ったとき良くフィグリネはそのように笑った。
「冗談ではないぞ」
「えぇ…分かっております。だからこそ笑っているのです」
「……それはなぜなんや?」
もしかしたら残酷な処罰が待ち受けているかもしれないのに、不思議でたまらん。
「なぜ……ですか。私(わたくし)は今まで上に立つ身でした。母国にいた時もアルヴァン様の元へ嫁いだ時も…常に上にいる立場の振る舞いを行って参りました。それが第一妻である私(わたくし)の務めだったからでございます」
「それが何と関係あるんや」
「私(わたくし)は確かに罪を……犯しました。醜い嫉妬により感情のまま…スフィアを亡き者にしようと……どうにかして追い出そうと致しました。ご存知の通りあのように暗い場所へ追いやったり、お茶会に誘わないよう話を合わさせたのも私(わたくし)でございます」
話では聞いていたが……やはりそうやったんか。
「この地位を…アルヴァン様をあの子に取られるのではないかと勝手に焦り……本当に醜い事を、上の立場の者が行ってはいけない外道な事を行いました。ですのでせめて、最後だけは自分らしく、そして第一妻であったように職務を全うして終わりとうございます…。皆が私(わたくし)に求めていたように、最後まで気高い私(わたくし)を演じて見せますわ」
そう言ってフィグリネは再びふふふ…と艶やかにほほ笑む。
いつもその笑顔を見てきたが不思議とこの時ばかりは無理して作っているように見えた。