暴君陛下の愛したメイドⅡ【完】


「もう怒ったぞ!!!ここで俺が実力を見せてあげよう」

「やっちゃえ!イブリン君!!!!」

頭にきたそいつが横に下げていた剣を抜く。

刃先は鋭く、見た目から本物の剣だと言う事が見て分かる。

「………お前切れる剣を人に向けるって事はどういう意味か分かっているんだろうな?」

「はぁ?切れねー剣ってのはガキが持つもんだろ(笑)」

その言葉に対し返ってきたのは、何とも馬鹿にするような言葉だった。

こいつは本当に馬鹿のようだ。

「知らないで抜いているのなら、戻す時間をやろう」

「お前何様だよ(笑)俺は貴族だけど??」

「………なるほど。じゃあ、覚悟はあると?」

俺はおじさんから買った切れない剣を手に取った。

「お前それ刃潰れてんじゃねーかよ(笑)そんなんで戦えんのか~!」

剣を見て再び馬鹿にしたような反応をするそいつに当たらないように剣を振る。

――ブワッ!!

するとその素振りの風により、相手の髪が乱れた。

「剣を握っていると言う事は命をかける覚悟があるって事だ」

「え………ちょっと待っ………ヴ……ッ」

―バタッ。

切れねーからと言っても流石に貴族相手に傷を作らせるのはあれかと思い、剣は使わずに拳で溝を殴ると簡単に倒れてくれた。

剣要らずの弱さだ。

「………で、次は誰?」

後の二人に視線を向けると、

「ひ、ひぃー!!!すいません、許してください!!!」

「お願いだから切らないで!!殺さないで!!!」

切ってもいないし、この貴族は死んでもいないのになぜか土下座で命乞いをされてしまった。



「いや、別に殺してねーし……。俺も面倒くさいから、それなら早くこいつ連れて帰ってくれない?」

溝を殴られ気絶した貴族の坊ちゃんを指さすと、二人は焦った様子でそいつを抱えバタバタとその場から立ち去った。

これで一安心だ……。


と思ったが。


――パチパチパチ。

急に聞こえてきた拍手の音。

何かと思い音のする方に視線を向けてみると、あの時騎士志願者の中にいた一般人のような服装のあの男であった。

「助けようかと見ていたけど、君強いね~!!」

「見てたんかよ…」

まさか上にもめ事起こしていたとか報告しねーよな…?

「あ、大丈夫大丈夫!このことは他の人に言わないから(笑)」

両手を広げ俺の心の中を呼んでいたかのようにそう言葉に出すそいつは、案外侮れないかもしれない。

「……そう。じゃあ何?」

「何って冷たいな~(笑)君強いし顔も良い。友達になろうぜ!!」

「………はぁ!!?意味わかんねー!!」

強いし顔も良いで友達になろうぜとは、考えてる事がわかんねー……。

「一人より女の子ナンパしやすそうだし~、ここ来てから友達とかいなかったから…なろうぜ!!」

いや……なろうぜって。

確かに俺もここに来てから友達とかいねーけどさ。

「お前まさかモテるから騎士になったとかじゃねーだろ?」

「………そんなわけないじゃん☆」

「あるのかよ」

「ないって!!本当だよ!!」

「いや、今の間はあったな絶対」

分かりやすい奴だ。

「悪いけど俺遊んでる暇ないんでね」

一刻も早くアニ姉を探さないといけないし、宮殿の騎士として覚える事がたくさんある。

チャラチャラしている時間なんて、悪いけど俺にはない。


< 313 / 368 >

この作品をシェア

pagetop