暴君陛下の愛したメイドⅡ【完】
俺が中々仕掛けないとこを見て何を感じたのか、最初に動いたのは相手だった。
――――タタタタタタタッ。
こちらに走ってくる足音は無駄のない一定の音。
近くまで来ると一度様子を見るために立ち止まり、そこから見極めて剣を振った。
―――カチャ…。
何とか受け止める事が出来たが、振ったという事の認知が遅れそうなほどその振りは早く、一歩間違えば終わっている。
そのうえ押す力が強い…。
――カチャ…カチャ……。
力の強さに思わず腕が小刻みに震え始めたが、何とか押し返し素早く距離を取る。
「………まさか新人が団長の剣をはじき返すなんて…っ!」
その光景になぜか審判役のウェンターズさんは驚きの声を上げていたが、今は気にしている場合ではない。
だいぶ距離を取ったはずなのに、少しもしないうちにその距離は縮められ追い詰められる。
「君の実力はこんなものかい?」
「……っ!」
俺を馬鹿にするように自信げな顔で笑うそいつを見ると、何とも言えないような気持が込み上げてくる。
腹立たしさ……と言うか、悔しさと言うか。この気持ちが何なのかは上手く表せねーけど。
「俺の実力はここからだ!!」
剣を持つ手にぎゅっと力を入れると、俺はそいつに向かって走っていく。
挑発に乗り、何も考えなしに向かってくるように見えるかもしれねーけど、
あの日、負けてからずっと意味のない修行をしていた訳じゃない。
―――カチャ…っ!!
「……っ」
上手い具合に剣を振れたが、そいつは簡単にそれを受け止めた。
これは予想通り。
受け止められた剣を素早く離して、違う角度からもう一度挑戦すると一瞬だけ体勢を崩し、そこを狙ってもう一度振る。
次こそは剣を弾いていると思ったのだが、
「良い振りだ」
「………」
又しても受け止められ、しかもまるで俺に稽古をしているかのような余裕さに腹が立つ。
だけど、俺がどんなに剣を振ったって、修行を重ねたって、こいつには勝てないという悔しさの方が強い。
―――カキーンっ。
「……くっそ!!」
余計な事が心の中で渦巻いていたせいか、剣を弾き飛ばされ拾いに行ける距離でもなく、俺から吹っ掛けた勝負はまたしても俺の負けで幕を閉じた。