暴君陛下の愛したメイドⅡ【完】
その為その事を知らない人達は、誰かが広めた噂話をさらに広げ、世間では賊に襲われたのだとされている。
「ところで、あの時証言にあった『赤い髪の旅人』を覚えているか?」
「覚えているが、それがどうした?」
ファンの言葉に表情が強張る。
「その事で思い出した事があるんだ」
「思い出した事……?」
「あぁ。俺は幼少時に父上から聞いたことがあったのだが、ある国では赤い髪を持つものは王族の血筋であると言われ、代々その国を継ぐ者は赤い髪であったとされていたらしい」
ファンはもちろんの事、ファンの親もその上も宰相だったという代々宰相の家系であったがゆえ、小さい頃から宰相になるべく英才教育を受ける中、そんな話を聞いたとファンは述べた。
「そう言えば余も聞いたことがあったな。その名は確か………ガルゴ王国であったか」
「そうだ。東諸国の一つで周りが砂漠で覆われた熱帯地。その旅人が赤髪であったとすると………恐らく」
「…………ガルコの王族か」
続きの言葉が分かってしまった陛下はさらに表情を強張らせ、
それとは逆に陛下は怪しい笑みを浮かべた。
「王族であるなら貴族よりまだ扱いは良かろう。それに、相手も王族で助かったな。これが商人や汚い貴族の手に渡っておれば………余は打ち首だけでは済まないだろう」
王族ならば買った奴隷を下手には処分しないと陛下は考えた。
「しかし、処罰も難しいところだ。あの国は武力的には低いが経済力には特に優れ、他国との貿易が盛んな国だ。仮に敵に回せば……まず他の国が黙っていないだろうな」
「……全て倒せば問題ないだろう?」
「東諸国は俺でさえ把握できていない事も多い。知りもせずに攻め込めば後で不利になるのはこの国だ」
ファンのそんな言葉に『それもそうか』と陛下は呟いた。
そして少しの沈黙の末、陛下はある事を思いついた。
「……であればこちらも同じ事をすれば良い」
「…………と言うと?」
何かを企んでいるような陛下の表情に、ファンは嫌な予感しかしなかった。