たとえ、この恋が罪だとしても。




そう決めると、今さっき出て行ったばかりの山崎先生の後を追うように、美術室から出た。


しかしもう廊下には姿がなく、とりあえず職員室に向かうことにした。




「真優」

「!」

職員室に向かって廊下を歩いていると、さっきまでグラウンドにいたお兄ちゃんが声を掛けてきた。


「お兄ちゃん…あれ、部活は?」



「今、休憩中。真優こそ、こんな時間まで何してるんだよ?」



首に巻いたタオルで汗を拭きながら、お兄ちゃんが聞いてきた。


ドキ。


「え…部活何にしようか考えてたら、こんな時間になっちゃって」


まさか、美術室でお兄ちゃんの姿を見ていたなんて言えない。


「ふーん。で、決まったのか?入部する部活」


「あ…うん」


「何?」


これは、美術部って言っていいものか…

でも、ここで誤魔化してもいつかはバレるだろうしー…


だったら、言うべきだよね…



「真優?」


黙ったまま考え込んでいると、お兄ちゃんが顔を覗き込んできた。


「!」

うわ!

近…!



ドキドキ、ドキドキ。


お兄ちゃんの顔で視界がいっぱいになり、ドキドキする。



「美…美術部に入部することにした」



顔が真っ赤になってしまっていることがバレないように、一歩後ろに下がり俯きながら言った。




び…びっくりした…


「…そうか」


あんなドアップでお兄ちゃん見たの、久しぶりだったから刺激が…


「涼真先輩ー!そろそろ練習再開しますよー!!」


遠くの廊下から、お兄ちゃんを呼ぶ声が聞こえる。



「今、行く」


お兄ちゃんはそう答えると、声がした方に向かって歩き出した。


「あ…お兄ちゃん」




そう呼んでも、お兄ちゃんは振り返らずに行ってしまった。



…せっかく、喋れたのに…



兄妹だからと言っても、毎日家で会話してるわけじゃない。
毎朝早く朝練に行ってしまうし、帰りも遅くまで部活をやっている。

だから、こうやって声を掛けてきてくれるのはチャンスだったのに…



「…てか、チャンスって何だ?」

自分で言った言葉に、苦笑いしてしまう。



チャンスもくそも、何もないのにー…




「…山崎先生のとこ行こ」


私は遠くからお兄ちゃんを見ていることしかできない、ただの妹。


それでしかないのにー…









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