キス逃げ ―衛side―

「昨日、やっと分かったんだ。紗柚が怒ってた理由」

「…どういう事?」

グラウンドを眺めながら、ゆっくりと素直に自分の気持ちを話し始める。
紗柚を見ないのは、不安で言葉が出なくなってしまいそうだったから。

「紗柚がキス逃げされたのを見て、凄い嫌な気分になった」

「……」

反応の無い紗柚。

「でも、紗柚は俺が毎日毎日キス逃げされたのを見ていたんだもんな」

不安な気持ちのまま、紗柚の方を振り返った。

「…別に、衛の彼女じゃないから……止める権利なんて…無いから」


下唇を噛みながら俺から視線を逸らした紗柚は、言葉とは裏腹に今にも泣き出してしまいそうだった。






「じゃあ、もし紗柚が俺の彼女だったら……キス逃げを止めてくれるの?」






気づいたら夢中でこんな事を口走っていた。


俺は……なんて…?


自分に驚く自分。

そして、それが素直な感情。

もう、自分を止める物なんか無くなっていた。

目の前に居る愛しいその子の頬を触ると、少しだけ熱を帯びているのが分かる。


――――ビクッ


不意に頬を触られびっくりしたのか、紗柚の体は人形のようにぎこちなく固まっていた。


俺は、紗柚の顔を自分の方に向けなおすと




「紗柚…俺、紗柚の事が好きなんだって気が付いた。俺と付き合って」




ゆっくりと視線を上げた紗柚は、今まで見た中で一番可愛くて女の子だった。


いつになく強引な俺。


不思議と恥ずかしさや不安はなかった。

紗柚は俺を見てから、少し照れながら頷くと


「私も…好き」


って応えてくれた。




< 10 / 12 >

この作品をシェア

pagetop