キス逃げ ―衛side―
「昨日、やっと分かったんだ。紗柚が怒ってた理由」
「…どういう事?」
グラウンドを眺めながら、ゆっくりと素直に自分の気持ちを話し始める。
紗柚を見ないのは、不安で言葉が出なくなってしまいそうだったから。
「紗柚がキス逃げされたのを見て、凄い嫌な気分になった」
「……」
反応の無い紗柚。
「でも、紗柚は俺が毎日毎日キス逃げされたのを見ていたんだもんな」
不安な気持ちのまま、紗柚の方を振り返った。
「…別に、衛の彼女じゃないから……止める権利なんて…無いから」
下唇を噛みながら俺から視線を逸らした紗柚は、言葉とは裏腹に今にも泣き出してしまいそうだった。
「じゃあ、もし紗柚が俺の彼女だったら……キス逃げを止めてくれるの?」
気づいたら夢中でこんな事を口走っていた。
俺は……なんて…?
自分に驚く自分。
そして、それが素直な感情。
もう、自分を止める物なんか無くなっていた。
目の前に居る愛しいその子の頬を触ると、少しだけ熱を帯びているのが分かる。
――――ビクッ
不意に頬を触られびっくりしたのか、紗柚の体は人形のようにぎこちなく固まっていた。
俺は、紗柚の顔を自分の方に向けなおすと
「紗柚…俺、紗柚の事が好きなんだって気が付いた。俺と付き合って」
ゆっくりと視線を上げた紗柚は、今まで見た中で一番可愛くて女の子だった。
いつになく強引な俺。
不思議と恥ずかしさや不安はなかった。
紗柚は俺を見てから、少し照れながら頷くと
「私も…好き」
って応えてくれた。